VITREORETINAL INJECTION日帰り網膜硝子体手術
当院では、日帰り網膜硝子体手術を行っております。
術前麻酔は下まぶたから眼球の奥に対して麻酔する球後麻酔を行い、手術中の眼球運動を抑制し、痛みを取り除きます。
麻酔薬を注入することで目に重さを感じることがありますが、すぐになくなって麻酔の効果が現れます。眼球に3箇所、眼内灌流(かんりゅう)液・機器の出入口を作って瞳孔から眼球内部を顕微鏡で覗きながら手術を行います。
まず眼球に出入口を作成するトロッカーと呼ばれる出入口を作り、直径0.36mm程の太さのため、縫合することなく手術を行います。以前までは1mmの入り口を作成していたため、縫合する必要がありましたがトロッカーを作成することで傷口が小さく合併症を発症するリスクを軽減でき、時間短縮とともに患者様への負担が少ない手術になりました。
また、以前までは角膜にガラスのコンタクトレンズを設置するため、縫合手術をしていましたが、当院では眼球内を非侵襲で治療する広角眼底観察システム「Resight」リサイト(Zeiss社製)を使用することで、日帰り手術が可能となり社会復帰を早めることができます。
なお、当院は重篤な既往症(心臓病など)をお持ちの方、術後点眼がご自身では困難な方、ご家族に協力してもらうことも困難な場合には近くの入院手術施設をご紹介させていただいております。
TIMING手術を受けるタイミングについて
疾患によって硝子体注射が必要になるか変わってきますが、硝子体疾患は網膜の中でも視力の中心となる黄斑と関連が強いとされています。放置していると視機能の低下に繋がるため、できるだけ早急に手術を受けるようにしましょう。硝子体手術を受ける必要のある疾患は、以下の通りです。
網膜剥離
網膜剥離は、眼科疾患の中でも緊急性の高い疾患であり、放置することで失明の可能性も高まります。黄斑部と呼ばれる網膜の中心が剥離してしまうと、視力回復の可能性が下がります。そのため、網膜剥離と指摘をされたら、手術を早急に受けましょう。網膜に穴が開いてしまう網膜裂孔が起こることで眼内の水が流れ込み、裂孔原性網膜剥離と呼ばれる網膜が眼球壁から剥がれ落ちる状態になります。網膜裂孔はレーザーで治療できますが、裂孔原性網膜剥離になると手術する必要があります。この手術には2種類の方法があり、患者様の年齢・症状・条件によって最も適した方法を選択して手術を行います。
硝子体手術
硝子体手術では、眼球内にある硝子体と呼ばれるゼリー状の物質を高速カッターで切除・吸引します。これにより、網膜裂孔を引き起こす原因となる硝子体の牽引を取り除きます。水よりも比重の大きい特殊な液体(パープルオロカーポン)を満たすことや、眼内に高密度フィルターを通した空気によって網膜を復位させた箇所にレーザーを当て、網膜と眼球の壁を癒着させます。手術では、パープルオロカーボンの除去・眼球内を空気で充填・特殊な気体(SF6またはC3F8)を定量注入します。眼内に取り込んだ気体が吸収される1~2週間程度は、自宅で過ごす際は可能な限り伏臥位の体勢でいるように心がけます。伏臥位でいることで網膜裂孔を起こした網膜を気体が眼球の壁に抑制することで正しい位置にレーザーの癒着を作り、網膜の復位を図ります。
強膜内陥術
強膜内陥術とは、強膜と呼ばれる眼球の壁にシリコン製の直径3mm程の筒状の柔らかいロッドを縫いつけて、剥離した網膜と眼球の壁を近づけることで眼球内にある硝子体の網膜を牽引する力が相殺されて網膜が元の位置に戻す手術です。網膜下液が網膜の裏側に溜まっている場合は、眼球に穴を開けて液を排出します。眼内に特殊なSF6という気体を注入した場合には、1週間程度は伏臥位の体勢でお過ごしいただきます。手術後は外来診察時に裂孔周囲をレーザー治療で凝固させ、瘢痕化します。手術後2週間程度は網膜にあてたレーザーが瘢痕化し、癒着するまでに時間を要するため、激しい運動・仕事は禁止となります。気体が目の中に入っている間は、眼球内の気体が膨張して眼圧が急上昇する場合があるため、高所への旅行・飛行機・新幹線での移動はご遠慮いただきます。
黄斑前膜
黄斑前膜は、物が歪視して見えるようになって視力低下に繋がる疾患です。網膜の中心部には黄斑部と中心視力があり、物を見る中心となって視力の大半を担う部分が阻止され、黄斑部と萎縮性の膜ができることで物が見えにくくなり、日常生活に支障を来します。黄斑部に皺ができるようになり、外から入る情報が眼底に投影される際に、脳へうまく伝達できなくなります。視力低下が進行して、中等度になった場合は一定の硝子体を硝子体手術で切除し、数枚重なった膜を特殊なピンセットで慎重に剥離します。また、網膜は10層になっているのですが、最内層界膜(厚さ5μm)も特殊な染色液で染めて膜を剥離し、再発防止します。これによって手術後の歪視は少しずつ軽減され、術後2カ月後から視力が回復してきます。非常に繊細な網膜と呼ばれる神経膜を手術するため、回復するには時間がかかります。
黄斑円孔
黄斑円孔とは、視力低下が起こり物を見る中心部が暗く抜け落ちる疾患です。原因としては加齢によって硝子体が液化・収縮することで、黄斑部に癒着していた硝子体が引っ張られ穴が開きます。黄斑円孔の他に、偽黄斑円孔という穴が開きかけている状態には硝子体手術が有効です。硝子体を充分に切除後、内境界膜(厚さ5μm)である網膜10層の最内層の基底膜の網膜表面を、特殊な染色液で染めた後、剥がします。網膜が充分に進展したタイミングで、高密度フィルターを通して空気の注入を眼球内に行い、手術は終了です。空気を注入することで網膜を伸ばし、開いている穴を閉鎖させますが、穴が一定以上の大きさの場合は閉鎖できる確率が下がります。閉鎖できないことが予想される場合には、長期残留ガス(SF6)を使用するなどの特殊な手術を行うことがあります。いずれにしても非常に繊細な網膜と呼ばれる神経膜を手術しますので、回復には時間を要します。
糖尿病網膜症
我が国の失明原因第1位は緑内障で、第2位は糖尿病網膜症です。糖尿病網膜症は進行すると続発緑内障を発症することがあるため、緑内障と糖尿病網膜症は早期治療を行うことが非常に重要です。糖尿病網膜症は様々な症状を発症し、網膜剥離を引き起こす増殖硝子体網膜症、眼内が血だらけになる硝子体出血、黄斑部に液状の成分が溜まることで浮腫む原因となる黄斑浮腫、高血糖が原因となって血管が収縮することで血流が充分に確保できないために新生血管が生まれる血管新生緑内障(難治性)になる可能性があります。硝子体手術による治療は負担が大きく、眼内の出血除去・増殖膜除去・眼内に数千発のレーザーを照射など数多くの治療を必要としますが、治療を行っても視力が出にくいことがあるため、このような状況を回避するに血糖コントロールを行う必要があります。手術後の血糖コントロールができない場合は視力低下が進行します。当院では、手術で可能な限り失明しないよう心がけていますが、患者様ご自身で血糖コントロール続ける努力が必要となります。
硝子体出血
硝子体出血とは、眼内が血だらけになる疾患です。症状としては視力低下ではなく、目に見える世界が暗くなります。原因としては、網膜中心静脈閉塞症(眼底出血)、糖尿病網膜症、後部硝子体剥離(飛蚊症の原因のひとつ)、網膜裂孔が原因の血管断裂に伴う血管の崩壊が考えられます。当院では手術において、できる限り硝子体出血を取り除いて原因となる疾患を特定し、最適なタイミングで治療に当たれるよう対応いたします。治療が遅れることで原因疾患の悪化に繋がり進行すると難治性の増殖硝子体網膜症を発症して失明する恐れがあります。古い硝子体出血は、眼内で非常に硬くなる器質化が進行します。手術を受ける上で、合併症を引き起こす確率が上がる可能性も踏まえて、患者様にはできる限り早めに手術を受けていただくことをお勧めします。
手術による合併症硝子体注射を受けた際、疾患に関係なく起こる可能性がある合併症です。
COMPLICATIONS術後の合併症
裂孔原性網膜剥離
硝子体と網膜の癒着が強いと、硝子体を取り除く際に網膜が引き寄せられて小さい孔ができる可能性があります。ただし、非常に稀なケースとされます。そのまま放置すると網膜剥離を発症することがあるため、術創が小さく済む術式を用いて、孔の周囲をレーザーで焼き固めて剥離が起こらないようにします。
術後眼圧上昇
緑内障の持病をお持ちの方に起こりやすいもので、術後に眼圧が上昇してしまう稀なケースがあります。緑内障用の点眼薬を使用すると症状が緩和しますが、緑内障手術を行う必要がある場合もあります。
術後眼内炎
手術には細心の注意を払っており、技術が発達したことで、切開箇所が最小限にでき、術後の感染症が起こる可能性は低下しました。術前・術後に抗菌点眼薬をさすことで、感染症のリスクは軽減されていますが、耐性菌に感染することもあり、眼内炎を発症することがあります。眼内炎を発症した場合、早急に治療する必要があります。術後3日経過してから急に眼痛が起きる、白目の充血が起きた場合、至急受診してください。
駆出性出血
脈絡膜は、網膜の外側を包んでおり、多数の血管が網膜に養分を届けるために集まっています。近年においては極めて稀なケースですが、脈絡膜の血管が破れて大量出血を起こすことがあります。対処法として、更に外側にある胸膜から切開を行い、うっ血した血液を取り除きます。